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野馬追文庫(南相馬への支援)二五

野馬追文庫(南相馬への支援)(二五)
            山内 薫

 二〇一五年一一月、まもなく震災後五年を迎えるという時期に、野馬追文庫の活動を支援して下さっていた「子どもたちへ<あしたの本>プロジェクト」が翌年三月をもって終了することになりそうだ、という知らせが攪上さんから届いた。ついては野馬追文庫活動の今後を

一、来年三月で終了とする
二、来年八月で本を送り始めてから丁度五年になるので、そこで終了する
三、JBBYの支援としての希望を出して今後も継続する
(私たちの一存では決められず、会議にはからなければならないと思います)
四、野馬追文庫として独立してやっていく(送り方などのやり方は変更しないとならないと思います)以上四つの選択肢で考えて欲しいと提起して頂いた。

 そこで福島で協力して頂いているお二人のご意見を先ず聞いてみることとした。
 Yさんからは

「仮設のはずがもうすぐ五年といういわば異常な状況が続いているわけで、終了するのは忍びないようにも思いますが、最近は、どちらかといえば施設への支援にシフトしてきているようにも思います。施設からは引き続いての支援を望まれているのではないかと思います。そのあたりも考える必要があると思います。何事も始まりがあれば、終わりがあります。様々な事情で支援が終わるということがあれば、それも受け入れなければならないと思います。これまでのご厚意に感謝いたします。
 五年という歳月は、本当に長く、そして厳しい道のりでもありました。福島は完全に復興したわけではなく、仮設住宅ももちろんありますが、やはり五年という歳月をすぎた今は、被災直後の状況とは異なってきています。厳しい言い方をすれば、被災者であっても自立の道を歩む方法を考えていかなければならないのではないかと思います。もし、支援を続けていただくにしても、支援を受ける人たちがこれからどうしようとしているのか、その目的にかなうような支援に変えていくことが必要かと思います。では、具体的にどのような支援と言われても頭には浮かびませんが、支援を受ける側と支援する側の意思確認は必要かと思いますが、いかがでしょうか?」

 Sさんからは

「私が住む福島市と南相馬市の状況が違うかもしれないので、判断が難しいです。福島市では、震災直後とは違ってきています。例えば、図書館見学に来た子どもたちが外の芝生の上でお弁当を食べたり、どんぐりを拾ったりするのが見られるようになりました。今でも図書館では、敷地内のそれぞれの場所の環境放射線量をお知らせしています。学校や保護者が判断して、原発事故以前のような行動をとっている人も多く見られるようになりました。安全だと判断してのことかどうかは分かりません。職場復帰後、たまたま返却された『うさこちゃんのにゅういん』を読んで、ぎょっとしました。うさこちゃんは、のどが痛くて入院し、手術していました。読後、私はその本の初版年を確認してしまいました。チェルノブイリ原発事故よりも前の作品であったことに、少しほっとしました。私には甲状腺がんに見えたからです。それでも、もし、甲状腺がんの子どもが入院を不安に思ったら、この本で勇気づけられるかもしれないと思いなおしました。
 震災から五年になります。さまざまな苦難に遭ったとしても、家族と一緒にいられる子どもは幸せなのではないでしょうか。五年で一区切り、でよいのかもしれません。福島の子どもたちには、たくましく生きてほしいと思います。選りすぐりの絵本を手渡し、お話の世界を子どもたちに届けたら、次は図書館でたくさんの本から自分で選ぶ、というステップに移ってもよいかもしれません。南相馬には、よい図書館もあります。 私は自分自身、被災者ということで甘えてしまっているのではないかと 思うことがあって、そう考えました。
 震災直後、ラジオのDJの『がんばれる人が、がんばれる時に、がんばれるだけ、がんばればいい』 という言葉にはげまされました。 私は、がんばれる時とがんばれない時がありました。 でも、震災からもう五年です。子どもが身近にいる大人は、決断し、歩き出さなければならない時期だと思います。」

 以上のようなご意見を頂いた。
 それに対して攪上さんは

「野馬追文庫の今後について真摯なご意見を誠にありがとうございました。なにか物事が分かりながらやってきたわけではなく、これでいいのかこれでいいのかと常に迷いながら向きあってまいりました私たちにとりまして、おふたりのご意見は常に大きな導きです。
 私も昨日発送のあと、ジネットの方、JBBY事務局の方とは今後についての話を交換しました。ジネットは、一一月が総会なのですが、来年度も今までどおりの支援を決めてくださっており、今までに集まった寄付金を来年度もかなり多額ですがくださる準備があるということです。必要ならば、更なる支援体制の強化も考えているともおっしゃってくださいました。JBBY事務局とも、野馬追文庫に限らずに、JBBYの今後の東北も含むIBBY Chlldren in Crisis 全体をどうしていこうかということを、この三月あしたの本プロジェクトが終了するにあたって、考えていく良い機会との意見で一致しています。あしたの本の終了と共に、JBBYの支援を再考する話し合いを担当者で持ちますし(私も含む4人が今年は担当になっています)一二月に南相馬に行った時には、南相馬の人たちの声を聞いてきます。支援の仕方は今の状況を見ながら変えていくことは必要ですし、自分たちがこれから何がどれだけできるかの実際の見通しも必要でしょう。一一日に毎月本を届ける、その時その時の南相馬を必ず思う、忘れない、当事者でもなく、被災地に住んでいないものにとって、忘れないでいることはそう有りたくないとの気持ちとは裏腹にやはり生活の中に入れこんでおくことは難しいことですがこの五年間見事に私の中から「忘れる」ことはありえませんでした。この支援の方法を、何か少し形は変わったとしても、つなげていきたいとは私自身は思っています。結論というか新しい方向はお二人からいただきました意見も大事に受け取りながら、三月ぐらいまで時間をかけて考えていきたいと思います。」

 という方向を示し、現実にJBBYの「希望プロジェクト」という形で野馬追文庫の活動を継続することとなった。

 JBBYの希望プロジェクトのパンフレットには「JBBY希望プロジェクト」について
 災害、貧困、DV、障害、放射線被害など
 日本の子どもたちは様々な困難と
 隣りあわせで生きています。
 困難を抱えた子どもたちに
 希望をもって生きられる未来を!
 日本での「子どもの本」を通した支援に
 ご協力をお願いします。
 という標語が載っており、「チルドレン・イン・クライシス」と希望プロジェクトについて下記のような説明が載っている。
 IBBY(国際児童図書評議会)とチルドレン・イン・クライシス(「危機にある子どもたち」)について

「IBBYは、戦後の混沌としたドイツで、戦争のない未来のために子どもの本を通して国際理解を深めようと一九五三年に発足した国際ネットワークです。現在は約八〇の国と地域が加盟し、子どもの本には人と人、国と国の間に理解をもたらし平和を築く力があると信じて活動しています。IBBYでは、二〇〇四年のスマトラ沖地震を機に基金を募り、チルドレン・イン・クライシスという、国境を越えたプロジェクトを発足させました。世界各地の紛争や災害、迫害などの危機に直面した子どもたちに、本を通じて心をいやし、状況に応じた本を届ける活動に資金を提供しています。」

 JBBY(日本国際児童図書評議会)と「希望プロジェクト」について

「JBBYは、一九七四年にIBBYの日本支部として発足し、『子ども・本・平和』にかかわる様々な活動を行ってきました。そして、二〇一一年三月に起きた大地震と津波、それに続く原発事故という未曾有の災害のあと、IBBYチルドレン・イン・クライシスの精神に基づく国内での活動を始めました。被災した子どもたちのために、子どもの本を通しての支援活動『子どもたちへ<あしたの本>プロジェクト』を発足させ、陸前高田市に子ども図書館を開き、気仙沼市や石巻市に図書館バスを走らせ、南相馬市に定期的に本を届けてきたのです。子どもの本に関わる複数の団体と協働しながらの五年間の活動でした。そこで培った経験や反省を生かし、JBBYは日本国内の困難な状況にある子どもたちに、本で希望の灯をともせるよう、新たに独自の活動をスタートさせます。これが『JBBY希望プロジェクト』です。」

 かくして、JBBYとジネットの協力のもと毎月一一日に本を送る活動は継続して実施できることとなった。

 ところで、Sさんの文中にディック・ブルーナの『うさこちゃんのにゅういん』が出てきたが、この月(二〇一五年一一月)に送った本がうさこちゃん生誕六〇周年を記念して出版された大判の『うさこちゃんのおたんじょうび』(福音館書店 二〇一五)だった。この本を巡って交わされたメールをご紹介する。

「野馬追文庫一一月分共通本は六〇周年記念版「うさこちゃんのたんじょうび」福音館書店お届けしました。大きく、色がよりくっきり際立つ版で、手にとったとき、懐かしさもありましたがふしぎに何か新しいうさこちゃんに出会ったような気もしました。うさこちゃん六〇歳!いま、のまおいぶんこは、主に子育て支援の場所に本を届けていますが、子育て中のお母さんたちには自分も懐かしい絵本だろうと思います。福島県立図書館のSさんが療養中に何気なく私達にくださった以下のメールが、この本を選んだきっかけになりましたので、そのSさんのメールも・・・・・・。」

★Sさんメール
「うさこちゃんのシリーズの中で、私が一番気に入っているのが『うさこちゃんとうみ』です。この”うみ”は、私にとって相馬の海でした。私の住む福島市から山をこえて、相馬の海によく行っていました。海といえば、相馬の海だったのです。震災後の新聞で、うさこちゃんが泣いている絵を見たとき、私は泣きたかったのだ、と気づきました。気づいた時には泣いていましたが。うまく言えませんが、『うさこちゃんは、私だ』と思いました。大人になって、世の中についての知識を重ね、物分かりがよい大人のふりをしていただけで、ほんとうは、ただ、ただ、悲しくて、不安で、泣きたかったのだと、分かったのです。
 うさこちゃん、マドレーヌ、マックス 、どろんここぶた、『ラチとらいおん』のらいおん・・・・・・。この年になっても、気がつくと私を支えてくれているものが、絵本のなかにあります。子どもたちも、そういう絵本に出会ってほしいと思っています。子どもの頃、文字を読むのが苦手でしたが、母が読んでくれたおかげで、たくさんのお話と出会うことができました。子どものときに『うさこちゃん』に出会えて、幸せだと思っています。」

★原町保健センター Oさんより
「いつもありがとうございます。やさしい絵本が届きました。そして、少し休まれているという司書さんの文章を読んでいたら、なぜか涙が出ました。だんだんと、忘れていきそうなことを、ふと、思い起こせる時間が持てるのは大切なことだな、と思います。お贈りいただいた絵本を、保健センター内の受付前の待合室の本棚ラックに入れて自由にお読みください、と、表示しています。この前、妊娠届にいらしたママと、お子さんとおばあちゃんがいたのですが、ママが申請書を書いている間、おばあちゃんに絵本を読んでもらっていて、とても素敵な情景でした。絵本に感謝です。お送りくださっているジネットの皆様にも感謝の気持ちでいっぱいです。」

★ちゅうりっぷ文庫 Jさんより
「絵本届きました。さっそく、お話会に読みました。小さい時母に読んでもらいましたと言うお母さんがいて懐かしがっていました。絵本は読み継がれるものだと痛感しました。次女の嫁ぎ先の母は、孫のお土産に毎月一冊うさこちゃんシリーズをプレゼントしていました。福島司書さん時間が解決してくれると思います。無我夢中で頑張りすぎたのですね、今度は、ご自身の為の休息に時間を使う事を、オススメします。」

★かのん(障害児発達支援事業所)Nさんより
「絵本のプレゼントありがとうございます。ちいさなうさこちゃんは私たちにとっても馴染みのある絵本で、昔入所施設の子どもたちの部屋にと、「ちいさなうさこちゃん」の絵を模倣しながら手作りカレンダーを作ったものでした。今回お送りいただきました絵本は子どもたちもとっても気に入って、昨日開封してから早速未就学児さんの読み聞かせに使わせていただきました。勿論午後から学童児さんも自分でかのん図書コーナーに行き、手に取って読んでいたようでした。とっても絵がかわいくて、シンプルだけどきちんとメッセージを持っている、だれもが一度は手にしたことがある素敵な本です ね。私は子どもが育つまで障害児の入所施設に長く勤めていたため、子育ては仕事の忙しさにかまけて手抜きしていたことを、現在の仕事を通じて今反省しております。逆に、うちの嫁はお母さんがいつも読み聞かせをしてくれ、小さいころから絵本を通してたくさんの事を学んだようです。
また、震災前まで高等学校の司書として働いていたこともあって、一歳の孫に毎日絵本の読みきかせをして大切に育ててくれているようです。やはり絵本は言葉と心を育てる素敵なツールですね?」