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野馬追文庫(南相馬への支援)十五

点字から識字までの距離 九七
野馬追文庫(南相馬への支援)(十五)
ふたたび南相馬へ
     墨田区立ひきふね図書館 山内薫

 二〇一五年二月二八日の土曜日再び南相馬を訪問した。今回の訪問は、南相馬市の障害児施設「のびっこらんど愛愛」からのおはなし会の要請によるもので、Kさんは前日に南相馬入りをして二日間の訪問計画を立てて現地に向かった。
 「のびっこらんど」というのは富岡町にある社会福祉法人福島県福祉事業協会が運営する発達の遅れや障害のある子どものためのデイ・サービス施設で「自宅から通園し、日常生活や集団生活への適応などの相談、支援サービスを提供します。」と呼びかけている。ホームページには次のようなサービスの概要が載っている。

<対象>
 発達の遅れが気になる乳幼児・学童のお子さんや障がいを有するお子さんを対象。保育所や幼稚園に在籍していても利用可能です。※介護給付費の申請後、市町村が決定した利用可能な日数の範囲内で、ご家族の都合に合わせて通園日を決めます。※利用の手続きは、居住地の市町村福祉担当課にご相談下さい。

<方針>
≪在宅の発達の遅れが気になる乳幼児や学童のお子さんやその家族を支援する事業。≫
 遊びや運動などを取り入れたプログラムを提供しながら、日常生活の基本的動作や集団生活の適応訓練を行っています。お子さんが楽しい時間を過ごし、お子さんの健やかな成長のためにお子さんとご家族を支援しています。

<特徴>
※保育所・幼稚園・学校と連携を図りながら、専門的な支援を行っています。専門スタッフによる巡回相談・外来相談を行っていますので、ご相談したいことがありましたら、ご連絡ください。プライバシーは、厳守いたします。

 そして「のびっこらんど愛愛」のページには次のようなサービス内容が記されている。
 療育サービス~お子さん一人ひとりのニーズに対応できるよう、専門各種スタッフが個別・集団的な支援形態療育プログラムに沿って支援します。
言語聴覚士による言語訓練。
送迎サービス~ご希望により自宅(または、指定の集合場所)とのびっこらんど愛愛間を送迎いたします。
食事サービス~栄養士の献立のもと、昼食の提供をいたします。※別途料金を頂くようになります。
 福島県双葉郡富岡町周辺にはこのような「のびっこらんど」が十一あることになっているが、その内、富岡町にある三カ所、広野町の一カ所、南相馬市の小高区の一カ所の計五カ所は原発事故の影響で休止中となっている。ちなみに休止していない他の「のびっこらんど」は南相馬にある愛愛の他、相馬市に二カ所、田村市に一カ所、いわき市に一カ所となっている。

 二月二八日には埼玉を中心とした臨床発達心理士の方たちが「のびっこらんど愛愛」を訪れ、障害のある子どもたちの親と面談して相談にのる日になっており合わせて子どもたちにお話し会をするという計画になっていた。

 Kさんによれば、
「臨床発達心理士会埼玉支部は、震災直後さいたまアリーナに全村避難した双葉町の子どもたちの支援からスタートし、(私も埼玉に住んでいたのでアリーナには何度か行きました。アリーナでの避難光景は一生忘れられない光景でした)双葉町が加須市の騎西高校に移ったのちも、そこが廃止されたあともずっと今に至るまで加須に残っている避難者を支援しています。その一方南相馬市在住の臨床発達心理士、Qさんより支援要請が入り、のびっこらんど愛愛の支援が始まり、ほかにも南相馬市内の保護者の相談会などを行っており、健康課や社協とも連絡を取り合い、南相馬には一年に三回ほどチームで支援に入っているようです。」

 その相談会に合わせてわれわれも訪問することになったのである。

「のびっこらんど」についてはこの連載の初めの頃のWさんの現地報告にも何回か登場していた。二〇一一年の一〇月の報告には次のように記されていた。
「のびっこランドでは今日は六人の子どもたちに絵本の読み聞かせとお話をしました。ある子は「Wー」と私の名前を叫んでいました。まずはリクエストされ『くらいくらい』を。みんな聞いたことがあり安心して怖がっていました。その後、先月からの約束の『けんちゃんとねこはかせ』一五年ぶりのぶっつけ本番です。『しっぽ』。休憩のために『たけのこ芽が出た』でじゃんけんをし、『三びきのやぎのがらがらどん』『ねずみくんのチョッキ』。リクエストが続きます。『だいくとおにろく』も先月からの約束だったのですが、時間がなく(お迎えの時間が迫ってきてました)途中まででいいと聞いて「うん」と言ってくれたので鬼が出てくるまでを。その後、持って行った絵本(読んだ本以外は『じゅげむ』『ノンタンおねしょでしょん』『一一匹のねこ』『おおきなかぶ』『へっこきよめ』)を自由に手にしてもらい終わりました。次こそ『だいくとおにろく』を。
 七月に絵本の読み聞かせを聞いてくれた子が、すっかり本が好きになり、一人で絵本を見る中で、ひらがなが読めるようになったとのことでした。うれしいです。(一〇月二六日)」

 さて、前日からの訪問記をKさんがレポートして下さっている。
<二月二七、二八日の南相馬訪問報告>
 今回は二八日の「のびっこらんど愛愛」でのおはなし会で南相馬に伺うにあたり、これまで野馬追文庫を資金面と発送作業でご協力くださってきたジネット(お茶の水女子大学児童学科・発達心理学講座/発達臨床心理学講座同窓会)の皆さんが南相馬の支援先を視察して、今後の募金などの呼びかけに生かしたいとおっしゃって下さり、ジネット六名(代表T会長)とともに南相馬に行きました。訪問先々での人々との交流は大変意義深く、その一部にすぎませんが、ご報告させていただきます。

 二七日(金)
九:五〇 福島駅東口一〇 番発、福島交通バスで南相馬へ
 私は何度も通ったこのバス道。川俣には人の姿も店も街の暮らしもかなり戻り飯館は廃村状態だが少し人の気配も。いつも行くたびに崩れ続けている家があるのだが今回もう完全にぺちゃんこに近い状態になっていた。周囲は黒い袋(除染した廃棄物)の山山山。通り道のほぼすべての田んぼや畑は荒地化。

一一:二七 南相馬市役所着、放射線測定器を確認、昼食「食彩庵」南相馬に来るといつもお昼はここ。なので人が確実に増えているのがわかる。南相馬市社会福祉協議会生活支援相談室のTさんを訪ねつつ、ボランティア登録。

一三:三〇~一五:三〇 社協主催友伸グランド仮設住宅サロン参加。この仮設は一番初めから出来た仮設。したがって野馬追文庫の本は一番初めのものから有り、ああそうそう、この本送った。この本だ・・・といろいろ懐かしかった。<お前たちは三年半ここでずっと、ここの人たちのくらしを見つめ人々の思いを感じてきたんだね。>十数名のお年寄りが集まり、血圧測定の後、歌を歌いながらみんなで輪になって肩たたきをしてからお互いの自己紹介。最高齢は九三歳。今回Yさんが見出してくれた「一刻餅と相馬の野馬追」伝承話を持参。ジネットのIさんとNさんが朗読。そこから相馬流れ山のお話になり、皆で歌ったり踊ったり。品格のある歌となだらかな踊り。お一人大変踊りがお上手な方がいらして皆で見とれる。

 一番初めにお送りした紙芝居「かっぱのすもう」をIさんに読んでいただく。驚くほど皆さんが食い入るように聞き入ってくださっていた。いつも仮設にお住まいの皆さんの助け合う姿や絆には心打たれますが、今回も一層みなさんの助け合い励まし合う姿が心に残りました。二八年四月には小高も戻れるようになるかもしれない。実際には様々な困難があるようですが、全く先の見えなかった現実から、少し先が見えるようになられた。最高齢の方は九三歳、この方がお元気なうちに、小高の家に帰れるようにしてあげたい。どうかそうなりますように・・・・・・。

一六:三〇~ じゅにあサポートかのん見学
 *発達の気になるお子さんたちへの療育支援・放課後支援の場
 所長Nさんが ジネットメンバーに資料をご用意くださり丁寧にご説明くださいました。ジネットのみなさんはほとんどが子どもに関わる仕事についている方たちですので、たくさんの質問が出ていました。利用者の子どもたちとも少し交流。野馬追でお送りした本や遊具も確認。
一八時 保健センター主任保健師Oさんと夕食会「華のれん」ジネット会員で臨床発達心理士会埼玉支部のS(聖学院大教授)も参加。三時間以上にわたり途切れることのないお話が・・・・・・。今も支援の最前線にたたれているOさんからのお話は、何もかもが参考になります。さっきまで元気だった同僚の方が、昨年八月の広島の土砂災害のテレビ映像を見たとたんPTSDを発症。休職なさり治療を受けながら最近復職されたお話。今は出産率が全国平均よりやや高い話。福島の子どもたちの自己肯定感が全国平均より高いという話では、無理をしているのか、という意見の反面、もしそれが本当に子どもたちの変化として起きているのなら評価してもいいのではという意見も。データの確認は必要。

二八日(土)
一〇時 ちゅうりっぷ文庫(Gさん)訪問 
 あたたかいおもてなしをうけました。Gさんが支えている南相馬の画家H子さんが合流。風と海と波乗りが大好きな彼女が、震災後の南相馬を描いた三冊の手作り絵本を読んでもらいました。声を震わせ、当時を思い出して涙ながらに読む彼女の声は心を打ちました。色彩がとても美しい、心象風景の絵本。南相馬を感じながら読んでいただくことが特に意味がある絵本でした。Gさんは震災直後は字が読めなっかった。絵本が助けてくれた。図書館に行ったら閉まっていた。自分の家庭文庫を再開するときは除染し、測定値を公表して、この数値でもよかったら来てくださいと呼びかけた。当時小さなお子さんを連れてきてくれた親子二組に最近無事に第二子が生まれた。我が事のように嬉しかった。Gさんはもこもこの布の絵本や作品をとても喜んでくださっています。小学校や児童センターでのおはなし会に送った野馬追文庫の本を必ず活用くださっています。
 私たち全員に、福島のおはなし、こどものとも年中向き三月号の新刊『さくらひらひら とんぴんぴん』(わたりむつこ作、ましませつこ絵、福音館書店)をプレゼントして下さいました。

 お昼過ぎに山内さんが加わりGさん、H子さんもご一緒して「のびっこらんど愛愛」へ。今回臨床発達心理士会埼玉支部の方と協力して、親の学習会と子のおはなし会を併催しました。八名の利用者参加予定が四名に減ってしまいましたが、超個性的な三、四歳の四名。一緒に絵本を聞く体験も始めて。常に奇声を発しているお子さんもいらして、さてさてどうなることかしら・・・・・・。でもわたしは「絵本を楽しめない子どもはいない」が信条ですので、信じて読みました。手遊びやパネルシアター「ぽんたくんの大変身!」など適度に挟みながら、布の絵本『こんこんくしゃん』、山内さんの巻紙芝居『おおきなおおきなおいも』に皆はみとれ、Gさんのしかけ絵本『しっぽしっぽしっぽっぽ』(木曽秀夫作 フレーベル館 二〇一一)、最後は紙芝居『みんなでぽん』(作・絵 まつい のりこ、 童心社)では全員がぽん!と手をたたいてくれて、超個性的な4人の男の子も見事に絵本の世界に入り込んでくれたのでした。奇声は全く聞かれませんでした。子どもってすごいね。絵本ってすごいね。そのあと彼らとたっぷり遊びました。

 子どもたちの両親はお話し会の始まる前から、子どもたちとは隔離された別室で三時まで臨床心理士の方たちと話し合いを持っていたので、お話し会が終わった後は積み木やトランポリンなどで四人の子どもたちと遊んだ。親の話し合いが終わって帰る段になって、子どもたちがそれぞれ自分のリュックサックを背中に背負ったのだが、どのリュックにも線量計が付いていたことが今でも目に残っている。聞くところによれば、まだまだ外遊びを自由にできる状況ではないとのこと。放射能禍はこれからもまだまだ続く。

 子どもたちと親が帰った後、四時まで臨床発達心理士の方と施設の職員の方との話し合いを持った。
 南相馬市社会福祉協議会の生活支援相談室のTさんから次のようなお礼のメールを頂いた。
「いつも支援して頂きありがとうございます。先日は南相馬にお出でくださり感謝申し上げます。四年経過するなかで、いろいろな問題を抱えながら生活しています。平成二八年四月帰還目標に皆さん生活していますが、どのようになるか悩むものです。帰還されても問題点がたくさんあると思いますが、私達、相談員は継続しながら支援していきます。皆様には長く支援して頂き心の支えです。機会がありましたらまた南相馬市に足を運んで下さい。本当にありがとうございました。」