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ごあいさつ

 

 

2011年に刊行された『絵本の事典』(編:中川素子 ・吉田新一 ・石井光恵 ・佐藤博一 朝倉書店2011)で、私は、「バリアフリー絵本とは、絵本を楽しむ事にバリアがある人たちに、そのバリアを取り除き、楽しみやすくした絵本、またはそのバリアを理解し、環境や配慮を整えることを目的に作られた絵本」と記しました。
バリアフリー絵本という表記は英語からきているものではありません。バリアフリーということばと本をつなげた用語として、1990年代に、<バリアフリーブック>(小学館)<バリアフリーえほん>(岩崎書店)2000年に<バリアフリーの本>(偕成社)というシリーズタイトルがついた本の出版がありました。私は2002年3月日本国際児童図書評議会主催の国際子どもの本の日のイベントで、国内の障害のある子どもたちに関係する絵本を集めて展示、その後巡回したのですが、その時これらの絵本をどう呼ぼうか、この展示会のタイトルをどうしようかと考えたとき、“バリアフリー絵本展”と名付けてみました。2003年には国際児童図書評議会障害児図書資料センターが選定する本を“世界のバリアフリー絵本展”として巡回展を開始し、今日まで継続しています。この展示会のもともとのタイトルは、“Outstanding books for Young People with Disabilities”あるいは、“IBBY Collection for Young People with Disabilities”ですので、バリアフリー絵本が訳語にあたるようなことばを用いているわけではないのですが、主催団体日本国際児童図書評議会では展示会タイトルにならって、障害児関連図書の事業をバリアフリー絵本・バリアフリー図書という言い方で展開してきました。近年では出版社や図書館、書店等で「バリアフリー絵本」という用語を使っているところも多くなりました。

 

バリアフリー絵本は3つに分けて考えるとわかりやすいことを、今まで随所で述べさせていただいてきました。

(1)絵本にある障害バリアを超えるために、特別な配慮を加えて作られている絵本 【FOR】

(2)障害バリアついて知る、理解する絵本【ABOUT】

(3)当事者によって制作された絵本【BY】

このうち、(1)のFORと(2)のABOUTという分類については、1981年にユネスコとIBBY(国際児童図書評議会)
が企画した“本と障害児展”のときに発行された展示本の解説付きカタログ(Ørjasæter, Tordis’Books and disabled children’ The International Board on Books for Young People 1981)の<はじめに>の文の冒頭に<books for and about disabled children>ということばが使われているのが出典になります。(forとaboutの下線も当時から引かれています。)
その分類を紹介した先行資料としては「日本のバリアフリー絵本–その現状と可能性」 (絵本学会紀要 絵本学8
2006)で、バリアフリー絵本の種類を「特別なニーズのある子どもたちのための(FOR)本・特別なニーズのある子どもたちについて(ABOUT)の本・特別なニーズがある子どもたちによって(BY)作られた本」と3つで説明し、『絵本の事典』の「障害と絵本」(朝倉書店2011)でも、その種類を「バリアのために(For)特別に作成される絵本, バリアについて(About)描かれている絵本、バリアのある人たちによって(By)作成された絵本」のこれも3つに分けて説明しました。

また、一般の絵本からFORのアプローチを知ることで、多様な子どもたちが楽しめる絵本を見出すことができます。この視座もとても大切で、FOR ,ABOUT ,BYに加えて、

(4)障害バリアのあるなしにかかわらず、ともに楽しめる絵本【WITH】

と4つにくくってバリアフリー絵本を説明することもあります。この(4)は “世界のバリアフリー絵本展・児童図書展”の展示でのユニバーサルアクセスというカテゴリーが相当するものです。

FORに含まれるバリアフリー絵本として、日本では以下の絵本が現在あるととらえています。

 
 

【視覚表現である絵本がもつバリアに対応するFOR絵本】

さわる絵本

手で見る絵本、指で読む絵本などともいわれる。絵の素材に近いさわり心地の触素材を貼り付けて、絵を構成したものや、点図や立体コピーで絵を描くものなどがある。多くの場合、視覚障害のある幼い子どもたちが対象である。さわる絵本の中に布絵本や点字つき絵本も加える分類の仕方もある。

点字つき絵本(貼り付け型・インターリーブ型) 

文の表記に点字が加えられている絵本。通常の活字の近くに点字が印刷されている場合や、タックペーパーなどで点字が貼ってあるもの、インターリーブというページの間に透明シートを挟みこみ、そこに点字が打たれているものがある。

てんやく絵本

文の点訳だけではなく、絵の形に透明シートを切り取って貼り、その説明の点字を加えてある絵本

点字絵本

文は点字のみ、絵は点図で描かれている絵本。

*「点字つき絵本・てんやく絵本・点字絵本」に関しては、同じ様式の絵本でも、用語が不統一な段階である。

 

【ことば・文字がもつバリアと、情報の混乱がひきおこされるというバリアに対応するFOR絵本】

布絵本 

布絵本とは台紙が布で出来ていて、そこに様々な布・フェルトなどで作った絵を綴じ付けたもの。障害がある子どもたちのために作成されている場合は、一部の絵がマジックテープ・ボタン・スナップ・ファスナー・ひも・などで、取り外しや移動ができる。また、とめる・はずす・くっつける・ひっぱる・むすぶ・ほどくなどの手指操作が、遊びながらできるように工夫されている。障害がある子どもたちのために創られている布絵本は、現状は殆どが手作り作品であり、オリジナルな作品の場合と市販絵本を布の絵本化したものとがある。紙媒体の図書への導入、あるいは、操作を楽しんでできることから、手指の訓練や遊びながら認識を高める事を狙った作品や、絵がページを動いてつながる特長を生かしたストーリーや作品、お話の動作化や空想の立体化ができる事を生かした作品などがある。布絵本も制作団体によって、布の絵本・布えほん・布のえほん・布の本など、呼称は統一されていない。

手話つき絵本・手話で読む絵本 

手話が文に加えられている絵本。動画(DVD)を使って手話で語っている絵本やイラストで手話が加えられている絵本がある。イラストでの加え方には様々なアプローチがあり、全文を手話に訳してあるもの、キーワードを手話で表しているもの、イラスト全体が手話を使って構成されているものなどがある。手話を覚えるための本ではない。

絵文字つき絵本 

絵と文のほかに、絵文字などの非言語的コミュニケーションシステムで単語や概念が絵記号によって表現されているものが加えられている絵本。認知障害や言語障害、読字障害などがある場合、視覚言語が加わる事でより理解がしやすくなる。

音声つき絵本 

文や絵を音声で伝えるために、CDなどが付随している絵本。

LLブック(やさしく読める図書)

わかりやすく書かれた本を必要としている人たち(障害のある人たち、異文化間を移動したために自分の母語でないその国の使用言語に対して理解力や読解力が不足している人たち等)のために、内容・絵・言語・レイアウトを工夫・配慮して作る。生活年齢にあったテーマで書かれている。絵本というジャンルでとらえるべきかはまだ研究が進んでいない。

 

これら絵本情報は、このHP内のバリアフリー絵本情報のページ(https://www.bf-ehon.net/bflist/bflist1)をご参照ください。
また海外にはもっと多様なアプローチがあります。これについては絵本展情報の各年度のIBBYカタログあるいはIBBYHPから直接カタログをご参照ください。
https://www.ibby.org/awards-activities/activities/ibby-collection-for-young-people-with-disabilities

 

このバリアフリー絵本のコミュニケーションネットが、絵本の障害バリアを超えて、すべての子どもたち(Every Children)に、絵本の喜びを届けることに少しでも活用いただき、役に立つならば幸いです。

 

2021年6月

攪上久子(バリアフリー絵本研究会・公認心理師)


 


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