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野馬追文庫(南相馬への支援)九

山内薫(墨田区立あずま図書館)

 子どもゆめ基金(独立行政法人国立青少年教育振興機構)助成活動の「被災地の子どもたちを本で支援する活動」の事業で「子どもたちへ<あしたの本>プロジェクト」主催のイベントを十月二十七日と十一月二十三日に計画してい
るが参加しないかというお話しがKさんからあった。十月はあいにく都合が付かなかったが、十一月二十三日の勤労感謝の日はあいている旨Kさんに連絡し、当日は午前十時から南相馬市原町牛越仮設住宅第二集会所でKさんと共に「おはなし&あそび」の会を行うことになった。初回の十月二十七日はPIPIO(http://casa-pipio.jp)という二人組のグループが南相馬市鹿嶋区小池長沼東仮設集会所で「おはなしとあそび」の会を行った。十月二十七日のレポート
は以下のようなものだった。

 「お年寄り二名 子ども延十二、三人くらい(出入りがあって)やんちゃ坊主が多くて、賑やかでしたが、楽しかったですよ。十時から十二時、のんびり時間が流れました。でも男の子達、なかなか帰ろうとしませんでした。一人の男の子は集会所の前に少し拡大して貼ってくださっていた 今回のチラシを、僕これもらっていくとはがしていました。」(Kさんの報告)

 以下はこの催しを映したパワーポイントから
 「南相馬市小池長沼応急仮設住宅東集会所、津波で家を流されてしまった方たちが多い。/絵本『あーといってよ あー』(小野寺悦子 作、堀川 理万子 絵、福音館書店 )子どもたちの声は忘れられません。腹の底から、声をだすことで、嫌な思いが少しでも飛んでいったら、と願うばかりです。あんなに大きな声を聞いたのは、初めてかもしれません。嬉しかったです。(pipio 武本佳奈絵さん)/野馬追文庫送付本『じゅげむ』子どもたちは大きな声で一緒に長い長い名前をすらすらと・・・/絵本『やきいもするぞ』(おくはら ゆめ 作、ゴブリン書房)子どもも大人も大笑い/小池長沼の仮設には登録上は二十数名の子どもが住んでいるそうです。赤ちゃんも妊婦さんもいるそうです。ひとりで住んでる高校生もいるそうです。ただ、毎日そこに住んでいる子どもたちがどのくらい実際いるのかは、付き添ってくださった社協のこの仮設の担当のスタッフさんでもつかめないと。前日の金曜日夕方のバスで福島から南相馬に向かいましたが、七、八組の幼い母子が同乗していました。もしかしたら週末だけ南相馬に帰る母子なのだろうと思いました。子どもたちは皆よく知り合っていて、皆が兄弟のよう。遠慮もなく、お前はうるさいから帰れとか・・・、でも皆別々の学校に通っていたり、何回も引っ越して今はここにいる子も。/八十七歳のUさん。津波すぐそこに来た。真っ黒く光ってくるんだよ。叫びながら逃げたから、今も片方の耳が聞こえない。怖かったよ。ほんとに怖かった。すぐそこまで津波が来たんだよ。逃げたんだよ・・・怖かったよ・・・/お友達を誘って集めてくれ、絵
本も夢中で聞いてくれて、私たちが帰る最後までいて見送ってくれたA君。来週も来てね・・・って言ってくれた。ありがとう。元気でね。」映像にはお話しの他ワークショップでサブローごま(円盤状の厚紙の真ん中にビー玉がついていて、ビー玉が軸になってなめらかに回るこま)をみんなで作っている写真もある。

 さて、十一月二十三日は新しくできた牛越仮設住宅第二集会所で行うことになっているが少なくとも九時には南相馬にいないと間に合わないとのことで、前日に南相馬のホテルに泊まることとなった。当日のポスターには「おはなし&あそび」「おおきなおおきなおいも」の巻紙芝居やります!二〇一二年一一月二三日(祝)一〇:〇〇~ 南相馬市 原町牛越仮設住宅第二集会所 参加費無料、申込不要 対象 〇才~どなたでも!

 山内薫さん(東京都墨田区立あずま図書館員) Kさん(臨床発達心理士)と書かれ、中央には絵本『おおきなおおきなおいも』(赤羽末吉 さく・絵 福音館書店)の表紙写真が載っている。 前日の二二日朝九時半にJR福島駅前で待ち会わせ九時五十分の福島発南相馬行きのバスに乗って南相馬に行くことになった。

 ところで野馬追文庫のシールに「馬」という字を使わせて頂いた書家の乾千恵さんの書展を南相馬図書館で開催するという話が並行して進んでおり、乾さんとの間を取り持って下さった「NPO法人弱視の子どもたちに絵本を」のTさんがこの機会に同行して南相馬図書館と打ち合わせをしたいと申し出でられた。乾さんの書展「乾千恵書展『月人石』の世界」は最初「浦和子どもの本連絡会」の三〇周年記念行事として企画され、その後そのまま南相馬を巡回するという計画になっている。また乾さんの要望でくだんの「馬」の字を南相馬図書館に寄贈したいという申し出もあり、実際にリトグラフに刷られた「馬」を持って行って、館内のどこに飾るのが良いかも確認したいという話になった。併せて、それならばと浦和子どもの本連絡会のDさんも同行するということになり、総勢4人で南相馬を訪問することになったのだった。

二二日の朝、新幹線で福島駅に降り立つとすでにTさんとDさんはバス停で待っておられ、早速切符を購入してバス停に並んだのだった。Tさんが抱える大きな藍染めの風呂敷包みには乾千恵さんの「馬」と「月」のリトグラフが二枚の入っていた。

バスは福島駅前を九時五十分に出発して途中川俣営業所を通り飯舘村を横切って南相馬区役所に一一時三五分に付く予定の福島交通のバスで、乗客は私達の他に数人だった。途中の川俣営業所を過ぎて飯舘村に入ると車窓に見える家
はどこも白いカーテンが敷かれ人の気配が全くないのだった。時々小さな会社のような建物の前に車が見られることもあったが、ほとんど無人の町という印象が強かった。

 時刻通りに南相馬市役所に到着したが、Kさんが市長との面会のアポを午後一時の約束で取ってあるということで昼食をどこで取ろうかと探していると、市役所近くに食彩庵という古い旧家を改造したようなお店があり、そこで純和
風の定食を食べることができた。お店の庭には大きな石造りの蔵やタンクなどがあり、いかにも旧家というお店だった。

 市役所はそのお店のすぐ近くにあり、入り口には句碑があってそこには「野馬追いの行列町を貫けり 鉄之介」とあった。午後一時にはまだ一〇分ほどあったが南相馬市役所に行くと市長室に案内された。市長室には模造紙に大きく書かれた「夢と感動 勇気と希望を!! ガンバレ!南相馬!」はり紙が正面にあり、その下に二〇一二年七月二八~三〇日の相馬野馬追いのポスターが貼られている。脇の壁の上には初代南相馬市長と名誉市民六人の写真が額に入って飾られていた。

 市長との面談は三〇分弱に及んだが、野馬追文庫のことをはじめ、私達が今回南相馬を訪れた経緯について説明し乾さんの書を見て頂いたりした。桜井市長は多くの友人を津波で失ったとも話され、こうした事態の中で首長として活動できるやりがいについて熱く語られた。アメリカのタイム誌の「世界で最も影響力のある一〇〇人」に選ばれた桜井市の活躍や考えは『闘う市長 被災地から見えたこの国の真実』(桜井勝延、開沼博著 徳間書店 二〇一二)に語られている。会談後市長はまた公用車に乗って慌ただしく市役所を出て行った。市役所を辞して前庭に行くと放射能測定器があり〇、三一八マイクロシーベルトを表示していた。

 その後歩いて南相馬市立中央図書館へ向かった。南相馬の市内の町並みはまだ半分ほどのお店が閉まったままになっているという感じだった。図書館はJR原ノ町駅前に位置し、駅側に市民情報交流センターがありその奥に大きな図書館が控えている。駅に向かってコンクリートの壁にグリーンの長方形の案内が出ており、その上に「南相馬市図書館」というロゴが配されている。この図書館の基調となる色がグリーンで館内のソファーなども濃いめのグリーンと薄いグリーンの二色に統一されている。建物は四階建てで図書館の大半は一階と二階にあり三階には閉架書庫の上の部分と電算室、四階は二階と三階を占めるマルチメディアホールの屋上部分に当たり天空のテラスと称して市域の展望と野外集会のテラスが配置されている。延べ床面積はほぼ五四〇〇平米と大きく面積のほとんどを一階と二階が占めていることになる。

 早速応接室に案内され館長のAさんに会い、乾さんの「馬」を見て頂き、館内のあちこちの壁に置いてみた。図書館の一階にたたみコーナーがあり、そこの床の間に掛け軸が掛けてあった。その場所に「馬」を置いてみると大きさもぴったり嵌まるのだった。これは表装してお届けし、この床の間に掛けるのが最も相応しいのではと思った。
 その後乾千恵さんの書展を行う予定のクラフトルームなどを見せて頂き、副館長のHさんに館内を案内して頂いた。Wさんも常々言っていたように南相馬市図書館は本当にすばらしい図書館であることを見学しながら実感した。一緒にいたDさんが一階の書架スペースから二階を見上げて「この図書館は見えないようで見えて、見えているようで見えない」と感想を述べたら、Hさんはすかさず「高名な建築家が全く同じことを語っていた。」と話した。つまり館内にいて人に見られているという意識がないような工夫が凝らされているのだ。また中央の書架スペースの周りには「旅と地図」、「仕事とまちづくり」「医療と介護」「宗教哲学」等々の主題を持った小スペースが窓際に並び、低い書架に主題の本が並べられ、窓からは外の景色も見え、その空間にいるととても落ち着いていて、あたかも自分の家の書斎にいるような気分になるのだ。中央の書架部分は吹き抜けになっているが、それを取り囲む小スペースが二階にもあって、芸術のコーナーには貸出用の額に入った絵画やポスターが沢山並んでいる。ゴッホの「ひまわり」の隣にはエリック・カールの「はらぺこあおむし」の大きな絵、そして浮世絵から写真まで、これを借りて自宅の壁に一定期間飾っておけるのだ。二階のティーンズコーナーには掲示板があって、そこには「ひとことカード」というメモが九枚貼られていた。「ひとことカード」にはこんな事が書かれている。「皆さんのオススメや思ったことなど、なんでも書いてボックスに入れてみてください。担当も回答やコメントできるものは頑張って回答してみます。書いてもらった「ひとこと」は掲示板に貼ったりしたいと思います。」その下に記入欄があって、例えば「誰を好きになったら、いいかわかりません。 中二男子」と書いてある。その下に担当よりとあって「わかるまで放っておくのがいいと思われます。」と担当の回答が書いてある。「受験生は大変です。勉強ばっかり。頑張ろうと思っても「やる気」が出ません。どうすれば「やる気」が出ますか。by優杏(○中)」その回答「受験生さんにあまりなことは言えませんが・・・参考まで ①中間か期末に達成可能な目標を立ててみる ②志望校の制服を着て高校に通う自分をイメージしてみる ③好きな子と一緒の学校に行く・・・? ③はむちゃぶりですね、わすれてください・・・・・」「只今就職活動中の高三女子です。よく履歴書や面接の回答を参考にすべくそれ系の本を借りるのですがどれも転職者用で特に志望動機等が参考にならなかったりします。」今活動している人やこれから活動するであろう人達のためにも新卒者でも参考になる本を置いて下さい。よろしくお願いします。乱文で失礼しました。 m(..)m」回答「ご要望ありがとうございます。学生さん向けの就活関係の本、余り置いてありませんでしたね。申し訳ありません。図書館内にある就活の本集めてみましたが、これからもmさんが役に立つ本や白い本をどんどん加えていきたいと思いますので、情報や気付い
たことがあれば、ひとことカードで教えて下さいね。」

 どの回答も親身になって答えていて、こんな回答が返ってくるようなら、若者は心を割っていろいろ聞いてくるのではないだろうか。 結局夕方五時近くまで館内を案内して頂いて五時頃図書館をあとにした。宿泊予定のホテルは図書館の目の前にあり、その足でチェックインした。

 その夜、最初に野馬追文庫に係わって下さった保健師のOさんのお誘いを受けて夕方六時半からの駅前の居酒屋祭太鼓で開かれる懇親会に同席させて頂くことになった。大阪の摂津市から定期的に支援に来ている保健師の方などと南相馬の社協や保健師の方の集うこの懇親会には同行のTさんもDさんも参加することになったが、摂津市はTさんの住む豊中市の隣にあたり、驚かれたという。

 祭太鼓はホテルからすぐの所にあり、早めにホテルを出たので原ノ町駅付近を散策していると、駅近くの道路沿いにある「ふくしまインドアパーク」という施設が目に止まった。そこはNPO法人フローレンスによって運営されている屋内遊び場で、ネット上では次のように活動が紹介されている。

「キャッチコピー:福島の子ども達が体を使って思いっきり遊べる屋内公園、活動内容:震災による福島での原発事故の影響で、多くの親御様が屋外で子どもを遊ばせることが出来ないという不安を持っており、子どもが外で遊ぶ時間が減っています。子どもはごっこ遊びで創造力を培い、友達と遊ぶことでコミュニケーション能力の基礎を学びます。子どもにとって遊びは、欠かすことができない心の栄養なのです。フローレンスは、福島の子どもたちが思いっきり遊んでもらえる屋内公園を郡山市と南相馬市で運営しています。」開園は一〇時から一八時までなので、室内に人の気配はなかったが、さまざまな大きな遊具が見て取れた。

 祭太鼓での飲み会は六時半から九時近くまで盛り上がり、終わったあとは明日に備えて皆それぞれのホテルに帰った。

 ところで、この間野馬追文庫の活動に対して、墨田区の点訳グループ「点訳きつつき」から二年にわたり十万円ずつの寄付があった。また、同じく墨田区の音訳グループ「朗読奉仕くさぶえ」の賛助会員であるBさんから数ヶ月に一度、一万円のご寄付を頂いている。Kさんの関係では、Kさんの大学の同窓会ジネット(お茶の水女子大学児童学科・発達心理学講座/発達臨床心理学講座同窓会)から、二〇一一年度五十万円 二〇一二年度三十万円のご寄付と二〇一二年十二月から毎月の発送作業に二名ずつお手伝いに来てくださっている。野馬追文庫は「子どもたちへ<あしたの本>プロジェクト」の一つであるので、この他にもあしたの本全体へのご寄付やチャリティーオークションでの収益などから、この文庫の活動(絵本購入・発送費用など)を支えていただいている。(http://www.jbby.org/ae/link/?lang=ja)野馬追文庫の活動が継続して続けられているのはこうしたみなさまの支援があってのこと、感謝に耐えないと共に今後も支援をよろしくお願いしたいと思います。

 また、二〇一二年十一月から毎月絵本を利用者から募って集めてお送りくださっている高知こども図書館からは次のようなうれしい報告が、先日あった。「こんにちは。Fです。十月になっても三十度を超す気温にやっぱり南国、と実感している昨日今日です。今月分の本、添付のリストの本を本日発送いたします。今月は嬉しいことに、地元の南高校のJRC部のメンバーが文化祭で作成・販売した南高校オリジナルタオル売上金を野馬追文庫用の絵本にと寄付してくれました。二五〇枚作って五〇〇円で販売(完売!)。必要経費を差し引いた全額をご寄付くださいました。すでに届いていた十二冊に寄付金で購入した二十五冊を合わせて計三十七冊お届けします。寄付総額は四三,七五〇円。購入した絵本は三〇,八〇〇円です。来月もこの残金で八~十冊、新しい本を購入してお届けできます!間を取り持ってくれたのは、図書館の利用者で、会員でもある南高校の教師でJRCの顧問でもある方です。また、絵本の募集もします、と言ってくれました。とても嬉しいことです。福島のこと、高知の高校生たち忘れていませんよと、どうぞ皆さんにお伝えください。 ではでは、失礼いたします。」


横浜漢点字羽化の会発行「うか」に連載