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野馬追文庫(南相馬への支援)七

山内薫(墨田区立あずま図書館)

 Kさんから六月に送る本についての打診があった。

 「今回、絵本一、読み物一でどうでしょうか?読み物は以前から候補に挙げている、『三・一一後を生きるきみたちへ-福島からのメッセージ』(たくきよしみつ著、岩波ジュニア新書)、『僕のお父さんは東電の社員です―小中学生たちの白熱議論! 三・一一と働くことの意味』(毎日小学生新聞編+森達也著、現代書館)、『希望のキャンプ―ふくしまキッズ夏季林間学校』(田口ランディ著、成清徹也写真、汐文社)、『こども東北学』(山内明美著、イースト・プレス)の四冊から一冊いかがでしょうか?」

 そこで、候補の本を入手して読むと共に、福島に住む友人にも意見を求めた。まずは『僕のお父さんは東電の社員です』については、メールで「最終的に容認できる本ではないというのが私の感想です。ゆうだいくんの手紙はそれなりにインパクトがあって、みんなで話し合う素材としては貴重なものだと思います。しかし、この本の編者のそのままにしてきた大人みんなが悪いごめんなさいという論理は、責任の所在を曖昧にするもので、ナチス・ドイツのルドルフ・ヘスまで持ち出して問題を拡散してしまう大人の側の論理はどうかと思いました。今は一日も早く原子力を使用した発電そのものをやめることが、私たちに課せられた課題だと思っています。処理できない使用済み核燃料を生み出していく原子力発電が安全だという論理は全く理解できません。福島第一原発で今も過酷な労働に従事している多くの人たちのことに思いをはせることや、派遣労働など、人を人として認めないような風潮が今も蔓延していることと今回の事故とその後の対応は通底していると思います。」と記した。

 この本に関しては、福島の友人からも「これは、たくさんある本の1冊として図書館で出会えればいい本のように思います。」という感想をもらった。

また、本宮市のYさんからも「山内さんの意見に賛成です。読んでいて、子どもの認識の誤りもあり、福島の人間としてちょっと不快になるところもありました。あくまで一人一人の子どもの意見だからとも思いましたが、やはり、今の被災地の方々にはあまり適さないと思います。」とう感想をもらった。

 Yさんは『こども東北学』について「著者が私より若いのに、『本当にこんな風に育ったの?』と思えるくらいの環境に驚きました。私の母や祖母の世代のことならわかるのですが、同じ東北にいながら別の世界のことのようで実感がわきません。一般的な東北学入門ならよいと思いますが、あえてこれを送る必要はないのではないかと思います。」という意見だった。この本については福島の友人からも「『こども東北学』をじっくり読みました。中央と地方、東北コンプレックスについて書かれたところが印象的でした。そういえば、私を含め、東北の人たちは関西の人たちのように東北の言葉を東京では使わない人が多いのではないかと思いました。共通語を使おうとします。だから『東北弁』ではなく『(東北)なまり』といわれるのかもしれません。でも、今の子どもたちはどうでしょう?『こども東北学』にうなずきながら読むのは、私たち世代かもしれないと思いました。うまく言えませんが、福島で震災を経験し、震災後も福島で過ごし、生活してきた人同士にしか許容できないことがあります。『こども東北学』も、手渡してくれる人を選ぶ本かもしれません。難しいです。」という感想を頂いた。

 なかなか入手できなかった『希望のキャンプ―ふくしまキッズ夏季林間学校』について、Yさんは「昨年、福島にいるほとんどの子ども達がこのような体験をしたでしょう。今年もこんなことになるのか?という思いがよぎりました。子ども達が『こんなことがあったな』と眺めるには良いかもしれませんが、万人向けではないのではと思います。」ということで、この本もあえて仮設住宅に送る本からは外しても良いのではと言うことになった。

 そして『三・一一後を生きるきみたちへ-福島からのメッセージ』も入手に時間がかかった本だったが、読んでみた感想は「つらい読書でした。福島で起きている事を忠実にレポートしていると思いました。」福島の友人も「読んでいて、震災後、福島で人々の間でおこったことをトレースしているような感じがしました。著者の思想的なことはともかくとして、福島の人たちの、負の部分が書き残されたと思いました。」と述べているように、今まで原発をめぐって福島でどのようなことが起こったのか。さらに原発事故後に福島でどんなことが起きたのか、ということが詳しく書かれており、私は正直読むのが辛かった。この本にはネット上で、かなり説得力のある批判もあり(http://hayao2.at.webry.info/201204/article_3.html)やはり、この本を今仮設住宅に送ることは逡巡せざるを得ないという結論となった。「結局、福島においても、あるいは私たちも含めて原発の問題に関しては様々な考え方や意見などがあり、それをまとめる事は不可能だという事がより鮮明に分かったというのが、正直なところです。そうした意味で、南相馬市の仮設住宅に原発関連の本で何を送るかという事は、先の東電の本も含めてとても難しい事だと思いました。」というのが最終的な感想と言うことになってしまった。こんな経緯で六月には前回記したように『おじさんのかさ』と『シャーロットのおくりもの』を送ることになった。

 ところで、南相馬のRさんから下記のようなメールがKさんに届いた。

「K先生にお願いですが・・・新年度になり、各仮設の自治会長さんが交代になったところや、新規に自治会長が設立されたところもあり、(あしたの本)野馬追文庫の趣旨が薄れつつあるところがあります。ぜひ、K先生からのメッセージをメールでいただき、それを各自治会長さんにお届けしたいと思いますがいかがでしょうか?お忙しいところ申し訳ございませんが、よろしくお願いいたします。南相馬市社協 R」
 そこでKさんが文案を作成し、私がいくつか追加・修正して下記のような文書を仮設住宅の自治会長宛に送ることになった。

「南相馬市 仮設住宅 自治会長各位
南相馬市災害復興ボランティアセンター、生活支援相談室のスタッフの皆様のお力に助けられながら、昨年八月から、毎月十一日に、南相馬市の仮設住宅に子どもの本を送らせていただいています。

「子どもたちへ<あしたの本>プロジェクト」(呼びかけ四団体は以下の通り)
 社団法人日本国際児童図書評議会(JBBY)  社団法人日本ペンクラブ(P.E.N.)財団法人日本出版クラブ(JPC) 財団法人出版文化産業振興財団(JPIC)
の行っているプロジェクトのひとつです。本年六月から、「野馬追文庫」としてシンボルマークも作りました。今年の相馬野馬追は、馬たちも戻ってにぎやかなことでしょう。
 毎月二冊ずつぐらいですが、仮設住宅の集会所に子どもの本を「毎月」送らせてください。送る本は、南相馬の「今」を私たちなりに一生懸命見つめ考えながら、仮設住宅で暮らす子どもたちに今どの本を届けたらよいかと、悩みながら選んでいます。
 南相馬の皆様の抱えている状況は、日本全体の、私たちの問題です。私たちは忘れてはいけない、忘れるはずはないのに、絶対に忘れてはいけないのに、皆さんにとってはまだ何も解決してないのに、ともすると人間は福島で起きたことを忘れてしまいがちになります。忘れずに欠かさず毎月本を送るということは、私たち自身への楔です。
 私たちは、本の力を信じて仕事をしたり活動をしています。自分たちの信じているものに祈りと願いと思いを込めて南相馬の子どもたちに本を送ります。仮設住宅の皆様の近くにそれを置かせてください。何気無く子どもたちが手に取ってくれたなら・・・、お母さんお父さんが、家に持って帰って、子どもたちの読んでくださったなら・・・、おじさん、おばさん、おじいさん、おばあさん・・・皆さんも野馬追文庫の本が目に入ったら、どうぞ手にとってください。優れた子どもの本は、大人にも楽しいものです。皆さんで好きに読みあってください。紙芝居もありますので、サロンなどで上演してみてください。
 南相馬市には日本一と言えるようなすばらしい図書館があります。野馬追文庫の本を礎にしてどうぞ豊かな図書館の本も利用して頂けたら幸いです。
 お送りする本は、仮設住宅に暮らす皆さんのものです。どんなふうに使っていただいてもかまいません。
 震災から一年三か月、皆様の日々の暮らしを取り戻すためのたたかいのご苦労を思うと、深く首を垂れるのみです。その暮らしの中で、毎月どんな本が送られてくるだろうというささやかな楽しみをお持ち頂けるなら幸いです。ご要望などありましたら是非声をお聞かせ下さい。
 南相馬の子どもたち、未来ある子どもたちが人を信じ、元気に育っていってほしいと願わずにはおれません。どうぞ、今後ともよろしくお願いします。野馬追文庫 山内薫・K」

 なお七月には『一休さん』(宮尾しげを著、新・講談社の絵本)と『きゅうりさんあぶないよ』(スズキ コージ著、福音館書店)の二冊、八月には『じごくのそうべい』(田島征彦著、童心社)と『おにぎり』(平山英三文、 平山和子絵、福音館書店)の二冊を送った。


横浜漢点字羽化の会発行「うか」に連載