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野馬追文庫(南相馬への支援)十六

点字から識字までの距離 九八
野馬追文庫(南相馬への支援)(十六)
二〇一三年に届けた本
     墨田区立ひきふね図書館 山内薫

 東日本大震災 被災地支援活動 「子供たちへ あしたの本プロジェクト」のホームページの「だいじょうぶセットと野馬追文庫」(http://www.blog.jbby.org/ae/about/?lang=ja)にKさんが野馬追文庫で送った本を報告している。二〇一三年一〇月には以下のような今まで送った本のリストが掲載されている。

 『トリゴラス』(文研出版)、『いいからいいから』(絵本館)、『そら、にげろ』(偕成社)、『ふしぎな話』(大月書店)、『紙芝居かっぱのすもう』(童心社)、『ごろごろにゃーん』(福音館書店)、『注文の多い料理店』(ミキハウス)、『じゅげむ』(クレヨンハウス)、『うさぎさんてつだってほしいの』(冨山房)、『きつねにょうぼう』『二年間の休暇』(福音館書店)、『紙芝居かさじぞう』(童心社)、『てつがくのライオン』(理論社)、『おもちのきもち』(講談社)、『だいくとおにろく』(福音館書店)、『ドラえもん1』(小学館)、『放射線になんか、まけないぞ!』(太郎次郎社エディタス)、『はなをくんくん』『わたしとあそんで』『みどりいろのたね』(福音館書店)、『へっこきよめさま』(童心社)、『月人石』(福音館書店)、『おじさんのかさ』(講談社)、『シャーロットのおくりもの』(あすなろ書房)、『一休さん』(講談社)、『きゅうりさんあぶないよ』(福音館書店)、『じごくのそうべい』(童心社)、『おにぎり』(福音館書店)、『うまいものやま』(童心社)、『てんぷらぴりぴり』(大日本図書)、『さんびきのやぎのがらがらどん』『おだんごぱん』『おおきなおおきなおいも』(福音館書店)、『イソップのお話』(岩波書店)、『さるのせんせいとへびのかんごふさん』(ビリケン出版)、『手ぶくろを買いに』(偕成社)、『NEOぷらす くらべる図鑑』(小学館)、『はなさかじい』(フレーベル館)、『紙芝居くわずにょうぼう』(童心社)、『ふたりはともだち』(文化出版局)、『オムライス ヘイ!』(ほるぷ出版)、『コッケモーモー!』(徳間書店)、『つきのぼうや』(福音館書店)、『やまんばのにしき』(ポプラ社)、ほか、高知こどもの図書館から寄贈いただいた絵本

 この連載では二〇一二年一二月に送ったイソップのお話までで、それ以降の本について報告していなかったので、今回は二〇一三年に送った本とそれにまつわるやりとりなどを報告する。

二〇一三年一月
『さるのせんせいとへびのかんごふさん』穂高順也作 荒井良二絵 ビリケン出版

二〇一三年二月
『手ぶくろを買いに』新美 南吉作 黒井 健絵 偕成社
 この本についてのSさんのメール

「『手ぶくろを買いに』についてですが、よいと思います。福島県立図書館で所蔵していた黒井健さんのものと、わかやまけんさんのものを読んでみました。どちらもすてきな絵本でした。そして、あらためて新美南吉は天才だと思いました。人間をこわくないと思える子狐に、救われる気がします。疑心暗鬼な親の気持ちと、無邪気な子どもの様子が、身近な親子に重なります。ついつい、狐の親子を福島の親子、あかりの灯る家で眠りにつく人間の親子を、東京の親子のように感じてしまい、泣いてしまいました。私は震災以降、何を読んでも、以前とは少し違う読み方になってしまいます。以前から思っていたのですが、黒井健さんの絵本の活字は少し読みにくいですね。近くにこの本を読んでくれる大人がいるといいな、と思います。黒井健さんの絵本、よいと思います。雪の反射やまぶしさが、最近の雪景色に重なります。福島の子どもたちに、この『手ぶくろを買いに』に出会ってほしいと思いました。」

 高知子ども図書館からの本の中に『せんたくかあちゃん』が入っていたことについてSさんからのメール

「『せんたくかあちゃん』は、もう少し待っていただけますか?私の住む福島市と南相馬市では状況が違うかもしれませんが、今年に入ってまだ一度も外に洗濯物をほしていません。放射線の心配ではなく、雪と寒さのためです。もう少し暖かくなってからの方が、子どもたちも共感できると思います。人によって違うと思いますが、私は気持ちよく洗濯物をほしたい、でも、原発事故以前のようには気持ちよくほせない、という気持ちでいます。「そんなこと気にしてたらここでは暮らせない」という人も、もちろんいます。最近、また福島に、子どもを屋内で遊ばせるための施設ができました。外で遊ばせるのが心配だという保護者が、まだ多いのだと思います。」

 このメールについてSさんは現在の心境をこう述べています。

「時が経て、少しずつ変わっていく気持ちとのズレがあります。当時はそう思っていたけど、今はそれほど強く思わなない、ということもあります。今では原発や除染のニュースを見ても、甥は怒りをあらわにはしませんし、冷静に考えています。福島の人たちは、 当時よりも静かに受け止めていると感じます。そこには、あきらめ、もあるのかもしれません。あきらめ、といっても、前向きなあきらめもあります。現状を受け止め、何ができるか考え、動き出す時期にきていると感じています。」

二〇一三年三月
『小学館の図鑑NEO+(ぷらす) くらべる図鑑』(小学館)

二〇一三年四月
『はなさかじい』松谷みよ子 瀬川康夫絵 フレーベル館

二〇一三年五月
紙芝居『くわず女房』作:松谷みよ子 絵:長野 ヒデ子 童心社

二〇一三年六月
『ふたりはともだち』
作・絵:アーノルド・ローベル 訳:三木 卓 文化出版局

二〇一三年七月
『オムライス ヘイ!』 武田 美穂:ほるぷ出版

『100万回生きたねこ』(佐野洋子 ポプラ社)が候補に挙がった時にSさんのメール
「うまくお伝えできないのですが、震災前は、朗読したこともあり、すてきなラブストーリーだと思っていました。しかし、震災後、もう2年もたっているのに、私には、まだ、子どもたちに読んであげようと思えない絵本です。私自身、生きて、ハッピーエンドでおわる話をもとめてしまいます。もうしばらくの間、絵本の世界では幸せな楽しい時間を過ごせるようなものをお願いしたいと思っています。逆境にいても、最後には自分の力で幸せになれるというストーリーの絵本もいいな、と思います。たとえば、『はちうえはぼくにまかせて』のような。

 それに対してKさんは

「これは<たとえば>ですので、今回のご提案ではないのかもしれませんが一応読み直してみました。子(いのち)が育っていく、それをまっすぐ信じている作者の気持ちがとても心地よい本だと思いました。ただこの本を南相馬に私は今は送れないかな?私は山内さんが大好きな『こすずめのぼうけん』もまだ南相馬にはお送りできないのですが、それは私の仕事が、親子支援がフィールドの心理相談員だからかもしれません。南相馬は、いま家族揃って生活している方よりも、かつての家族は何らかの形で今離れて暮らしているのが「普通」に近いように思います。特に仮設の人たちは、ほとんどの方はかつての家族とは離れて暮らしています。家族が、この子のこころの基地にあってこその物語、それはいま南相馬でとても危うくなっている・・・・・・心配です。」

 私の提案「絵本の世界では幸せな楽しい時間を過ごせるようなものをお願いしたいと思っています。逆境にいても、最後には自分の力で幸せになれるというストーリーの絵本もいいな、と思います。という意見をいろいろ考えていましたが、『コッケモーモー!』(徳間書店)などどうでしょうか?この本は特別支援学級などでもよく読みますが、みんなゲラゲラ笑ってくれます。」

 ということで二〇一三年八月は
『コッケモーモー!』作:ジュリエット・ダラス=コンテ 絵:アリソン・バートレット 訳:たなか あきこ 徳間書店を送った。

この間南相馬の仮設住宅を訪問したKさんからのレポートが届いた。
「今回、仮設二箇所のみですが、スタッフのお話からは、紙芝居はあまり需要がなさそうでした。二箇所とも綺麗に揃えて置かれていて、使われた気配がなさそうでした。一方二箇所とも見当たらなかったのは、三月に送った図鑑ですね。あと、二〇一一年一二月に送った『二年間の休暇』(福音館書店)これも見当たらなかったです。二箇所ともパッと目についた絵本がいちばん最初、つまり二年前の八月に送った 『トリゴラス』Wさんが、初めにお送りしておきたいと強く主張された絵本ですね。あとで力を持ってくる絵本だろうと。何か二箇所ともそんな雰囲気に本棚に置かれていました。目立っていました、どうしてかはわかりませんが・・・・・・」

二〇一三年九月
『つきのぼうや』作・絵:イブ・スパング・オルセン 訳:やまのうち きよこ 福音館書店
 この本は二〇一二年の一二月に南相馬の仮設住宅で読んだ本。

二〇一三年一〇月
『やまんばのにしき』松谷みよこ 瀬川康夫 ポプラ社

 Sさんから「『やまんばのにしき』は、以前、推薦させていただいた絵本ですね。お年寄りが活躍し、元気な赤ん坊が出てくる話なので、喜んでいただけるのではないでしょうか。やはり、最後は幸せになる話、愉快な話、何度でも読みたくなる話がうれしいと思います。日本の昔話集のような読み物は、すでに文庫に入っていましたでしょうか?大人も子どもも楽しめて、コミュニケーションにつながるような、読み物がないか、探してみます。文庫に推薦する絵本ではありませんが、私が福島の子どもたちに、読んであげたいと思っている絵本があります。それは、『花さき山』です。この絵本に描かれた東北の風土というか、東北の人たちのやさしさ、がまん強さを福島の子どもたちに伝えたいと思うからです。多くのがまんを強いられている福島の子どもたちに、これ以上のがまんを強いるということではなく、やさしい気持ちを大事にしてほしいというメッセージをきちんと伝えるためには、読み語りという方法で手渡すのがよいのではないかと思っています。先日、甥と姪たちに『花さき山』を読んであげました。原発事故のその後のニュースを見て、怒りをあらわにしていた中学2年生の甥も、静かに聞いていました。本当にいつも、どうしたらよいのかと考えています。」

 Kさんからは「一一月分(あるいは一二月)、読み物を届けたいと思いますが、いかがでしょうか?読み物ですと、絵本ほど、わあ~~楽しいというようなだけの内容というわけにいきませんが、以前から、昔話集のようなもの、というご提案はありましたね。具体的にありましたらお願いいたします。」という提案があったので、私は

 「グリム童話が良いのではと思います。以前Yさんが「忠臣ヨハネス」を思い出したとおっしゃっていましたが、出来ましたら、この作品が入っているものが良いと思います。」と忠臣ヨハネスが入っているグリム童話集の内『語るためのグリム童話集第1巻「ヘンゼルとグレーテル」』小澤俊夫 監訳/オットー・ウベローデ 絵/小澤昔ばなし研究所 再話 小峰書店)を推薦した。以前にも以下のようなYさんの手紙の一文を紹介した。

「私は一年前のあの震災のときにふとグリム童話の「忠臣ヨハネス」というお話しが頭をよぎりました。あの未曾有の震災の中にいて、あの話を思い出すことができて、私自身が、人間としての尊厳を守ることができたのではないかと今になると振り返ることができます。人間は、苦悩の中にあるとつい憎しみや恐怖で我を忘れてしまいますが、困難をあえて引き受ける覚悟を持つことが必要だと忠臣ヨハネスは私に言ってくれたような気がします。このような経験からも、私は自然に物語の中にある力を自分の生きる糧にできると考えています。」(本連載の南相馬への支援八)

 その後Yさんはめでたく男児K太朗君を出産された。K太朗君が一一ヶ月になった時にYさんからKさんに宛てた手紙の一部を引用させて頂く。
「(前略)世の中は、東京オリンピック招致で大さわぎですが、このことで福島はますます忘れられるのではないかと思います。今、汚染水の問題が取り上げられていますが、本当にいつになったら廃炉にできるのか?(できないかも)と暗澹たる気持ちになります。経済最優先の今の日本では原発はこのまま推進されるのでしょうか?もう福島のことはなかったことにされ、(または千年に一度のたまたま起きた大震災によって引き起こされた不幸な事故とされて)忘れられてしまうのでしょうか。でもここに住むものは一日として忘れて暮らしていくことはできません。今も私の家庭では飲料水は購入したミネラル・ウォーター、汚染水のことを考えるとこの近海の魚介類もどうかと考えてしまいます。もう慣れてしまったとはいえ季節の地物の野菜や果物を楽しんでいた生活は二度と戻ってこないかもしれません。(中略)この子のために、前向きに生きていかなきゃといつも元気をもらっています。こんなに小さくて一生懸命絵本を見ている姿を見ると、一体この小さな頭でなにを考えているんだろうと頭のなかをのぞいてみたくなります。絵本を見ている時はいつも抱っこかどこか私の体を触って聞いています。それを見るにつけやはり絵本は心と体のスキンシップなのだと思います。安心した状態でないと絵本は心から楽しめない。心から信頼した人と絵本を分かち合う経験ができることが、今の息子にとっては何よりの喜びなのではないかと推測しています。絵本がどのように子どもに影響を与え、心を育てていくかというのは私がずっと抱えている課題ですが、息子との日々はきっと私に何らかの答えを与えてくれるだろうと思います。(後略)平成二五年九月二六日」

 二〇一三年一二月
クリスマスにちなんだ本ということで『急行「北極号」』(作・絵:クリス・ヴァン・オールズバーグ 訳:村上 春樹 あすなろ書房)を推薦した。
 Kさんからも「 大人(YA)のコーナーのあるような絵本ですね。絵が目を凝らして観ないとならないような暗い印象を持ちますが、そこが魅力ですものね・・・・・・。訳者 村上春樹さんの名前も目を引くかもしれません。」

 Sさんからは「『急行「北極号」』、どんな内容か思い出せなかったので、読み返してみました。とてもよいと思います。すてきなお話でした。河出書房新社とあすなろ書房のものを両方読んでみたのですが、あすなろ書房のものは、改訳版なんですね。同じ村上春樹訳でも、表現がかわっていて驚きました。旧版のよいところと改訳版のよいところがあると感じました。甥や姪たちにも、クリスマスが近づいたら、読んであげたいと思います。」

 ところで横浜漢点字羽化の会が一九九六年一月の神奈川ライトセンターでの講習会を期に本格的な活動を開始して二〇年を迎えます。翌年の四月から刊行されているこの「うか」も一〇五号を迎え、図書館で一〇〇号までを四分冊に製本した合冊は、書架の一八センチを占める大部なものになります。ここまで長きにわたって活動を続けてこられたのは、ひとえに岡田さんの志の高さによるといえるでしょう。漢点字の普及という大きな目的に向けて、これから先一〇年二〇年とこの会の活動が続くことを祈念します。