ここから読み上げブラウザ用のメニューです ニュースへジャンプします おしらせへジャンプします メインメニューへジャンプします 読み上げブラウザ用のメニューの終わりです
ここからメインメニューです

IBBY障害児図書資料センター設立者 トーディス・ウーリアセーター(Ørjasæter, Tordis)

1981年「完全参加と平等」をテーマとする国際障害者年に、イタリアのボローニャ児童図書展で、ユネスコが主催する<本と障害児に関するセミナー>が開かれた。‘The Role of Children’s Books in Integrating Handicapped Children into Everyday Life’(日常生活に障害児を統合する際の児童書の役割)というタイトルで基調講演を行ったのは 当時ノルウェー国立特殊教育研究所の助教授であったトーディス・ウーリアセーターであった。この基調講演で、ウーリアセーターは、子どもの本に関わる人すべて―編集者・作家・画家・図書館員等―に、障害のある子どもと本をめぐる問題を正しく知ってもらい、世界中の障害がある子どもたちが、良い本にたくさんアクセスできるように、国際障害者年以降の長期的な計画と実行を訴えた。この時同時に“本と障害児展”も開催され、展示本の解説付きカタログ(Ørjasæter 1981b)も発行されている。ここでは20以上の国から、障害児のための本(FOR)、障害児に関する本(ABOUT)が寄せられた。この時、日本もJBBYが依頼を受けて調査研究し、FORの本14点、ABOUTの本168点を調査結果として送っている。そして、これが契機になり、世界各地で同様の展示会が開催された。さらにこの時に開かれた、“本と障害児展”とそのカタログの発行というプロジェクトの成功は、1985年IBBYとノルウェー国立特殊教育研究所の協力で、オスロ大学内にIBBY障害児図書資料センターを設立することにも結びついた。

1985年に設立されたセンターは、この年に早速展示会を開催し、それに伴ってカタログを発表している。‘Books for Language Retarded Children(言語に困難さのある子どもたちのための本)’ No. 20 in UNESCO’s Studies on Books and Reading Seriesである。先の展示会もボローニャ開催後スカンジナビア諸国やチェコ、メキシコ、オーストラリア、イギリスなど世界を巡回したが、この展示会も、フランス・スペイン・アイルランド・フィンランド・スウェーデン・ノルウェーなどの国を巡回した。

1981年のウーリアセーターのレポートや、1985年のIBBYのカタログで発信されているその中核をなすコンセプトは、障害のある子の社会への「統合(integrate)」である。1980年当時、まだ世界では今日のような「インクルージョン(inclusion)」ということばは使われていなかったが、願うところやその意味することは、2008年に発効した国連の障害者の権利条約が掲げるインクルージョンと同じものと考える。また、これらの動きの背景には、北欧のノーマライゼーションという理念の成熟がある。ノーマライゼーションとは先に述べたように、障害がある者とそうでない者とが平等に生活する社会を実現させる考え方である。ウーリアセーターの1955年生まれの長男は自閉症であった。ウーリアセーターも、息子が隔離された大型施設で生活するのではなく、また家族が抱え込むのでもなく、地域で生きる家としてのホームや、生涯教育と労働を保証したワークセンターを息子のために作っていく。それはまさにノーマライゼーションへの道の歴史そのものであった。そして本がすべての人々、障害のある人々にも、よりよく生きるために必要であることを世界に訴えつづけた。

展示会とカタログの発行は今日までIBBY障害児図書資料センターの中核をなすプロジェクトとして継続され注12、普及・研究のためのアイディアバンクの役割を果たしながら、本を通じて障害のある子どもたちが社会参加をしていくことを願って活動している。

1981年の基調講演The Role of Children’s Books in Integrating Handicapped Children into Everyday Life’(日常生活に障害児を統合する際の児童書の役割)は、こうした図書に事に携わる者にとってバイブルである。最後のまとめの部分を掲載する。



「障害児の教育にたずさわる先生や施設の職員や親は、子どもの本についてもっと広く知っていなければなりません。図書館の司書の養成課程で、障害児や障害児の読書について学ぶことを義務づける必要があります。
作家、画家、編集者は、さまざまな障害の子どもたちに接して経験をつんでいる先生や施設職員や親の考えていることを、知る必要があります。障害をもつ子どもたちとつきあって、子どもたちに必要なものは何かを知り、理解して本をつくることが大切な場合も少なくないでしょう。
子どもたちが求めているものを画家、作家、編集者に知らせるのは、教育にたずさわる人たちの課題です。それを受けて何よりもまず、やさしく読めてしかも意味の深い文章を書くことが、作家の仕事です。画家は、文章を理解する手助けとなるような絵を、読む力のおくれている子どもや弱視の子どもの特別な要求に応じて措くことに挑戦します。適切な印刷技術(活字の大きさ、書体、組みなど)を用いて本をつくるのは、編集者やデザイナーの課題です。このようにしてできた本を、求めている人に紹介し、手わたすのは、図書館員の仕事です。
本にかかわる専門職の人々は、″適切な″図書を調査した結果やそのリストを紹介するとともに、障害児が使う本についての情報や、実践活動の報告が、社会に広く知られるようにしなければなりません。「適切な」という一語は、大切な意味をもっています。なぜなら、作者が、障害をもつ子どもを自分の本の中に登場させておきながら、その障害について十分な知識をもっていないことがあり、そういう本は避けなければならないからです。また、作者が子どもよりも障害そのものに目を奪われ、あたかも障害が子どもの全人格を左右してしまうように描く場合にも、特別な注意が必要です。図書館員など専門職の人々の仕事の中で、何よりもまず大切なのは、よい本があることを一般の人に知ってもらい、そういう本が大いに利用されるように、働きかけていくことです。本は私たちに影響を与えます。私たちは、おたがいが人間どうしとして出会えるような本を求めています。私たちの中には、障害をもっている人も、そうでない人もいます。本の中でも実際の生活の中でも、おたがいどうし、知りあうことが大切です。」
著:ウーリアセーター・トーディス 訳:藤田雅子・乾侑美子 『本はともだち』偕成社 1989
pp.114-116


参考文献
Ørjasæter, Tordis(1981)‘The Role of Children’s Books in Integrating Handicapped Children into Everyday Life’. Unesco No.1 in UNESCO’s Studies on Books and Reading Series

Ørjasæter, Tordis(1981)’Books and disabled children’ The International Board on Books for Young People

攪上久子(2015)「子どもの本の可能性を拓いた女性たち 国境に子どもの本の橋をかけたイェラ・レップマンと読書のインクルージョンをめざしたトーディス・ウーリアセーター 」下田歌子研究所年報1 女性と文化